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フルール・ド・リス
テーマ:神聖幾何学模様
【フルール・ド・リス】とフランス語で呼ぶ百合の紋章は、フランス王家の紋章として知られていますが、様々な歴史や不思議な物語を秘めたシンボルの一つです。
百合は【聖母マリア】を表し、中世以降の芸術には、マリア像の周囲にはユリの花がよく見られ、古くは古代エジプトやビザンティン美術にもあり、【無垢】【純潔】の象徴でした。
フランス王家の紋章は【ユリ】の紋章と言いますが、一説にはアイリス(イリス)の花とも言われ、フィレンツェの紋章にも使われています。
では、いかにしてアイリスがフランス王家の紋章になり、【フルール・ド・リス】と呼ばれるようになったのでしょうか?
それには、一つの伝説があります。
紀元5世紀、フランスの源泉となったフランク国の王【クロヴィス】の時代の聖者が発端でした。
ある日、聖者の瞑想中に天使が現れ、青く輝く土台にアイリスの花の楯を置いていきました。
聖者はその楯を持って王妃【クロティルダ】の元へ行き、天使からの贈り物である事を告げました。
クロティルダはカトリックで、キリスト教を王に伝えフランスの国教とした王妃です。
王妃は王クロヴィスに楯を授け、戦いに勝った王は楯が全く傷つかず、3つのアイリスが黄金に輝いているのを見ました。
以来、クロヴィスは軍旗に3つの金のアイリスの花を使い、12世紀のルイ7世王は公式に十字軍の旗へ採用、フランスのブルボン王朝に見られるように、ロイヤルブルーを背景に黄金の3つのアイリスを紋章としました。
また、アイリスはフランス語で『イリス』、百合は『リス』と言い、初期のイリスが後世にリスと混同され【フルール・ド・リス】と呼ばれたと伝えられています。
どちらの花もヨーロッパでは【神の花】として、古代から現在まで神聖のシンボルです。
このように古来から伝説的なシンボルである上に、シンメトリーで中央の高いデザインは、様式美の視点から見ても完成度の高い美しいもので、近世まで、王侯貴族ゆかりの宝飾メゾンでもジュエリーへ表されています。
フルール・ド・リスはデザイン的に見ても、中央が高く曲線と直線のバランスが美しい完璧な様式である、とお話し致しました。
フランス王家ゆかりの人々は、この装飾を19世紀以前には王家紋章として宝飾へ飾り、近世にはその美しいデザインを生かしたジュエリーが作られています。
1900年前後のベル・エポック期から50年代頃まで、クチュールのドレスで夜会に出た大貴族ゆかりの人々は、古典的なフルール・ド・リスを使ったデザインを、当時のグランサンクに注文しています。
フルール・ド・リスは、フランス王家のシンボルですが、当時、王侯貴族は存続していたにも関わらず、革命以降いにしえほど公的にフランス王家の存在を表すことはありませんでした。
しかし、ジュエリーへシンボルを表すことにより、王党派であることを密やかに現し、それゆえ尊敬と憧憬をも受けてきました。
また、百合の紋章は、十字軍の旗印にも使われたように、十字架を思わせるデザインでもあります。
フランスはバチカンの愛娘と言われるように、古来カトリックの国で、十字架に通じるフルール・ド・リスは、大変フランス的なデザインのジュエリーの一つです。
シンメトリーの美しいデザインは、中央に身につけると落ち着いた静謐感があり、十字架と共に胸元へ着けるのも綺麗なバランスになります。
フルール・ド・リスは、永遠の美的デザインの一つと言えるでしょう。
曼荼羅アーティスト Petit Piano